文大統領、朴槿恵前大統領の特赦を決定

文大統領、朴槿恵前大統領の特赦を決定

特赦が決まった朴槿恵前大統領 出典 Korea.net [Public domain], via Wikimedia Commons

 クリスマスイブの12月24日、韓国政府は服役中の朴槿恵(パク・クネ)前大統領の特赦を発表した。

 現在、病気治療のため、サムスンソウル病院に入院していた朴氏にとっては、思わぬクリスマスプレゼントとなった。

 朴槿恵前大統領は、在任中の2017年3月31日に拘束、収監されて以来、約4年9か月を獄中で過ごしている。朴氏は、親友に国家の機密情報を漏えいした、いわゆる「国政介入事件」などで懲役22年の刑が確定していた。

 朴氏の服役期間は、全斗煥(チョン・ドファン)、盧泰愚(ノ・テウ)元大統領らの2倍以上にもなる。

「国民統合と和合のため」とは言うが…

 特別恩赦(特赦)は、法務省が審査し閣議決定を経て大統領が決裁する。

 法務省では、12月20、21日に赦免審査委員会を開いて、新年の特別恩赦対象者を審議したが、東亜日報によれば、その時点で対象者リストに朴前大統領は含まれていなかった。したがって、今回の特赦は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領直々の決定とみられる。

 文大統領は特赦発表に際し、「赦免が考えの違いや賛否を超え、統合と和合、新時代の幕開けのきっかけになることを望む」と述べた。一方、朴氏は代理人を通して「文大統領と政府に深い謝意を表する」とコメントした。

 朴槿恵氏の赦免・仮釈放は、これまでも度々話題に上ったが、「ろうそく革命に対する裏切りだ」との反発が強く実現しなかった。

韓国歴代大統領の悲惨な末路

 韓国では、歴代大統領の多くが悲惨な末路を辿ってきた。

 初代大統領李承晩(イ・スンマン)は、失脚後米国に亡命。朴正煕(パク・チョンヒ)は部下によって暗殺された。全斗煥、盧泰愚は、光州事件と不正蓄財で断罪され収監された。文大統領が慕っていた盧武鉉(ノ・ムヒョン)もまた収賄疑惑で捜査を受け、逮捕の直前に自ら命を絶った。続く李明博(イ・ミョンバク)も収賄などの罪で起訴され、2020年に刑が確定、現在服役中である。

 なお、今回の特赦で李明博氏は、対象に含まれなかった。

 李政権下で盧武鉉氏が自殺に追い込まれたことに対する恨みがまだ消えていないからであろう。

李在明への援護射撃が真の狙いか

李在明への援護射撃が真の狙いか

カマラ・ハリス米国副大統領と歩きながら談笑する文在寅大統領 出典 ホワイトハウス

 文大統領がこのタイミングで特赦の決断をした思惑については、様々な憶測がある。

 1つは、獄中の政敵に対する温情を見せることで、南北外交の不調や「K防疫」の失敗で下降気味の支持率を回復させようという思惑である。

 もっと大きいのは、2か月半後に迫った次期大統領選挙の与党側候補、李在明(イ・ジェミョン)氏への援護射撃だ。

 今回の選挙戦で、野党「国民の力」では内紛が絶えない。今回の特赦は、野党の分裂をさらに促すという見方もある。

 国民の力には、依然として朴槿恵氏を熱烈に支持する勢力がいる。ところが、現在の大統領候補尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏は、朴政権下で特別検察官として朴氏を追い詰めた張本人なのである。

 また、李明博元大統領が特赦の対象から外れたことも、野党分裂につながりかねない。国民の力の中で、朴槿恵支持派と李明博支持派は別だからである。

大統領退任後も在職時報酬の95%が保障されるも投獄ですべて失う

 ところで、文大統領が今もっとも恐れているのは、自身の退任後の身の安泰である。

 大統領が訴追され投獄された場合、経済的な打撃も受ける。

 現在、退任後の大統領は「元大統領の礼遇に関する法律」によって、手厚く遇されることになっている。

 それによれば、大統領経験者は、退任後も在職時の報酬の95%を受け取り、必要な身辺警護・警備が提供され、秘書3人、運転手1人があてがわれる。交通費、通信費、家族を含めた医療費まで国が負担してくれるのである。

 しかし、大統領職を弾劾によって罷免されたり、禁固以上の刑が確定した場合には、このような待遇は受けることができない

 この規定により、大統領が退任後に投獄されると、名誉が損なわれるだけでなく、「無一文」になるケースが多い。実際、朴槿恵氏は罰金・追徴金を払うために自宅を競売にかけられている。

退任後の自己保身のための検察改革?

 実は、文大統領は、自身の退任後に不正追及を受けないよう、様々な布石を打ってきた。いわゆる「検察改革」である。

 文大統領は、これまでの大統領の多くが不正追及の対象となった原因を検察の権力が大きすぎることにあると考えた。そこで法務省長官(法相)に自身の側近を据え、検察の弱体化を推し進めた。

 ところが、自身が任命した曹国(チョ・グク)、秋美愛(チュ・ミエ)という2人の法相は、まさに検察から不正追及の矢面に立たされた。その時の検察総長が、現在野党側大統領候補である尹錫悦氏なのである。

 文大統領は、泥沼の抗争の末に尹錫悦氏を辞任に追い込み、悲願だった高位公職者犯罪捜査処(公捜処)を設置した。

 公捜処とは、大統領や国会議員などを捜査する専門機関で、公捜処設置により検察は、大統領を捜査する権限を失い、逆に検察自身が、公捜処の捜査対象になった。大統領は退任後も検察の捜査から保護される

 文大統領は、当然のように公捜処のメンバーを自分の息のかかった者たちで固めた。

 尹錫悦候補は最近、公捜処がマスコミや野党議員の通信記録を調べた件と関連し、「公捜処の存続・廃止について検討すべき」との見解を明らかにしている。

 文大統領は、仇敵である尹錫悦候補には、絶対に次期大統領に当選してほしくないのである。

与野党候補どちらが大統領に当選しても夜も眠れない文大統領

 しかし、与党「共に民主党」の大統領候補、李在明氏が当選すれば安心かといえば、必ずしもそうとは言えない。

 李在明氏もまた、最近になって、レームダックに陥り国民の支持を失いつつある文大統領とは一線を画しつつある。

 もともと李在明氏は、党内でも「反文在寅」とみられており、自分が当選した暁には、いつ前任大統領に反旗を翻すかわからない。

 現時点で、退任後の文大統領について特別な不正が明らかになっているわけではない。

 しかし、叩いてほこりの出ない権力者はいない。かつて金泳三政権は「5.18民主化運動等に関する特別法」という事後法を作って全斗煥と盧泰愚を断罪した

 文大統領もまた、「K防疫に失敗して国民の生命を危機にさらした罪」などという法律が退任後に制定されるかもしれない。

文在寅大統領は、当分の間、眠れない夜を過ごすことになりそうだ。

犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談

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