2022年1月7日公開

2022年1月7日公開

「ユンヒヘ」より ©2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 韓国映画「ユンヒへ」(イム・デヒョン監督)が1月7日、日本で公開される。冬の北海道小樽を舞台にした大人の女性同士のラブストーリーだ。

 近年の韓国では性的マイノリティーを扱うクィア映画が存在感を発揮している

 しかし、中年女性同士の同性愛というテーマはきわめて珍しい。この映画が生まれた背景を、韓国の性的マイノリティーを巡る動きとともにリポートする。

「ユンヒヘ」とは?

「ユンヒヘ」とは?

釜山国際映画祭のフォトセッション。左2人目からイム・デヒョン監督、キム・ヒエ、中村優子(2019年10月11日、芳賀恵撮影)

 高校生の娘と韓国で暮らすシングルマザーのユンヒ(キム・ヒエ)に、小樽から1通の手紙が届く。差出人は高校時代に愛した女性ジュン(中村優子)だった。手紙を盗み見たユンヒの娘セボムは、母を誘って小樽に向かう。雪景色の中で、忘れようとしていた過去の痛みがよみがえる――。

 「ユンヒへ」は2019年の釜山国際映画祭の閉幕作としてプレミア上映された。記者会見には中村優子も出席し、「国境や性別などカテゴライズされたものを悠々と飛び越えて、どんな形の愛であってもいいということを教えてくれる映画」と脚本を絶賛した。

 「映画の多様性」を掲げる同映画祭は、この年も国際合作や女性監督の作品を多く選定し、作品のテーマも多岐にわたった。

 「ユンヒへ」はテーマ性からも日韓の共同作業という点からも、映画祭のクロージングを飾るのにふさわしい作品と評価されたのだ。

韓国クィア映画の進化

韓国クィア映画の進化

「ユンヒヘ」より ©2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 韓国の性的マイノリティーに対する視線は、いまだ保守的だが、この20年間ほどの韓国映画を見ると、クィア映画が進化を遂げていることがわかる。

 2000年代は、ゲイであることを公言しているイソン・ヒイル監督やキムジョ・グァンス監督の作品がインディペンデント映画界で注目された。

 この時期は、同性愛団体の運動により性的マイノリティーの問題が人権問題として認知され始めていたが、映画界からの問題提起も一種の社会運動の役割を果たしていた。

 2010年代になると女性同士の愛情を描く映画が増えてくる。「ユンヒへ」の公式パンフレットのファン・ギュンミン氏の解説によると、この時期には「私の少女」(2014)、「お嬢さん」(2016)、「はちどり」(2018)といった「女性たちの関係を様々な角度から考察した作品が多数登場」した。

 ファン氏が指摘するように、この頃の映画は、2015年以降の韓国のフェミニズムの盛り上がりと相まって1つの波を作り出した。一方で、これらの映画は、同性への愛を「愛の多様な形の1つ」であることを示した。「恥ずかしくて」(2011)などは好例だろう。

 この流れの延長線上に誕生したのが「ユンヒへ」だ。イム・デヒョン監督は映画祭の記者会見で、「それぞれの人生を生きる人々を互いに癒す愛について語りたかった」と話したが、それは韓国クィア映画の変化を感じさせるメッセージだった。

大統領選でもイシューに

大統領選でもイシューに

「ユンヒヘ」より ©2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 性的マイノリティーの人権を巡る議論は、来年3月の韓国大統領選挙の争点にもなっている

 雇用や教育の現場で性別・国籍・障害・性的アイデンティティーなどによる差別を禁じる「差別禁止法」がそれだ。同法はこれまで何度も国会に提出されたが、いまだに成立していない。

 反対論者は、同法が発言の自由を制限すると訴えるが、根強く残る保守的な価値観の影響も大きいだろう。

 とりわけ強硬な反対派が、プロテスタント教会だ。

 韓国のプロテスタント教会は、同性愛の容認を禁じ、ことあるごとに性的マイノリティーを攻撃している。

 2020年5月、ソウルのゲイクラブで新型コロナウイルスの集団感染が発生した。

 この問題を特に熱心に取り上げ非難したのはキリスト教系の日刊紙「国民日報」だった。ホモフォビア(同性愛嫌悪)をあおるという人権団体の抗議をよそにゲイが集まる施設の“潜入ルポ”などを次々に掲載した。

3割近くを占めるキリスト教信者

 この例のような人権軽視の行動があっても、政界はキリスト教会の顔色をうかがわざるを得ない

 韓国統計庁の人口住宅総調査(2015年)によると、プロテスタントは19.7%、カトリックは7.9%とキリスト教信者が3割近くを占め、仏教の15.5%を大きく上回る。大票田ゆえに、人権問題に敏感なはずの与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補すら、差別禁止法の制定については慎重な態度を表明しているのだ。

 このような政界の状況をみると、多様性を認めることに関しては、文化・芸術界がリードしていることは間違いない。

 「ユンヒへ」の世界観が韓国社会に溶け込むには、もう少し時間がかかるのかもしれない。


2022年1月7日(金)|映画『ユンヒへ』予告編|20年を経て、母の初恋の女性に会いにゆく

<「ユンヒヘ」公開情報>
2022年1月7日(金) シネマート新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:イム・デヒョン
出演:キム・ヒエ、中村優子、木野花、ユ・ジェミョン(特別出演)ほか

芳賀 恵(はが めぐみ)
北海道大学研究員、韓国語翻訳、韓国語講師。韓国映画を中心に取材活動を行う。

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