南北首脳が親書交換

南北首脳が親書交換

2018年9月18日、文在寅大統領が平壌で金正恩総書記と会談(提供 コリアメディア)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記と、5月に退任する文在寅(ムン・ジェイン)大統領と親書を交換した。

 北朝鮮の朝鮮中央通信と韓国大統領府が、4月22日に発表した。発表によると、金総書記は、20日に文大統領からの親書を受け取り、21日、文大統領の実績を称えた親書を送った。

 親書では、南北首脳が、2018年の南北合意の意義を評価した上で、対話の必要性を共有したと伝えている。

 5月に任期終了を控えた文大統領としては、今後の南北対話の足がかりを残したい考えだ。

 ただ、韓国政府は、親書交換を「南北発展の土台となる」と強調しているが、北朝鮮側は、国内向けに報道していないなど、南北の距離感を感じさせるものとなった。

文大統領「対話再開は次の政権の役割」

 韓国大統領府によると、5月9日に退任を控える文大統領は、金総書記への最後のあいさつという位置づけで親書を送った。

 文大統領は、2018年の板門店宣言や9月平壌共同宣言に触れ、「金委員長と手を取り、朝鮮半島の運命を変える確実な一歩を踏み出した」と振り返った。

 その上で、米朝対話が早期に再開されることを求め、「対話再開は次の(韓国)政権の役割となった。金委員長も朝鮮半島平和という大義を持って南北対話に臨むことを期待する」との考えを伝えた。

 文大統領としては、自身が退任した後も、北朝鮮側に南北合意の維持を訴えたものだ。

金総書記「文大統領を退任後も尊敬」

 これに対して、金総書記は、「残念な点が多くあるが、これまで傾けてきた努力に基づき、南と北が真心を込めれば、いくらでも北南関係は発展できるという思いは変わらない」「文大統領を忘れず、退任後も尊敬する」(大統領府発表)と返答した。

 また、朝鮮中央通信も「金総書記は、任期の最後まで民族の大義のために気遣ってきた文在寅大統領の苦悩と労苦について高く評価」しているとし、「北南首脳は、互いに希望を抱いて努力を尽くすならば、北南関係が民族の念願と期待に合わせて改善、発展する」という見解を共有したと伝えている。

 最近では、正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が、敵対行動を改めるよう非難談話を出すなど、韓国への強硬姿勢が目立っていた北朝鮮だが、今後の南北関係の発展に改めて期待を示した。

退任後の文大統領が南北対話に関与する可能性も

 親書の言葉通りなら、北朝鮮側は、5月に誕生する韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)新政権下でも、対話の機会を否定しないということになる。

 文大統領としては、2017年の就任以来、最優先で取り組んできた南北対話の成果が、対北強硬派である尹政権で振り出しに戻らないよう、手を尽くしている状況である。今回の親書送付も、その一環と言える。

 韓国では、文大統領が退任後も、何らかの形で南北対話に関わる可能性があるという見方もなされている。

 歴代大統領の多くが、退任後に逮捕や自殺など悲惨な末路を送る韓国では、大統領経験者による外交実績はほとんどないが、これまでの経験を生かして、文大統領が担う役割もあるかもしれない。

 とはいえ、妻の金正淑(キム・ジョンスク)氏を巡る不透明な金の流れが指摘されていることもあり、現時点では、尹政権が文大統領を正式に抜擢する状況ではない。

北朝鮮側の南北対話の優先度は低下

 一方の北朝鮮側は、2018年以降の米朝・南北対話の経験から、米国との直接対話を企図しており、韓国を米朝交渉の仲介役にすることは否定的である。

 北朝鮮からすれば、米国との対話が進まない中で、米国の影響下にある韓国との対話を優先させることには消極的だ。

 そのような中、仮に文在寅氏が退任後、南北対話の関与に意欲を示したとしても、尹政権で北朝鮮特使に正式に選ばれるのでなければ、真正面で向き合うメリットは少ない。

 金総書記は親書で、文大統領を「退任後も尊敬」と言及したが、リップサービス以上の意味合いが込められているとは、現状では考えにくい。

 今回の親書交換について、対外向けの朝鮮中央通信だけが報じ、国内向けの労働新聞などには掲載されていないことも踏まえると、金総書記としては、退任前の文大統領に対し、儀礼的なあいさつを送っただけとみられる。

 最後まで、文大統領と金総書記との間の温度差を感じさせる親書交換となった。

八島 有佑
@yashiima

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