フルカラーで縦スクロール

フルカラーで縦スクロール

ネイバー本社で行われた日本メディア向けプレスツアー(著者撮影)

 マンガと言えば、何と言っても日本が本場だ。コミック雑誌を中心に世界的なヒット作が生まれ、映画化され、キャラクターグッズがまた売れる。

 そういった日本型のビジネスモデルに近年変化が生まれている。

 アプリでマンガをダウンロードし、スマートフォンで縦にスクロールしながら読む韓国発の「ウェブトゥーン」が急速に普及しているのだ。

 ちなみに、日本のマンガは横スクロールが主流で、雑誌単位の購入が基本となっている。

 筆者は、韓国国際放送交流財団(ソウル)が主催する日本メディアを対象としたプレスツアーに参加し、ソウル郊外にある韓国のネイバー・ウェブトゥーン(リンク先は韓国語)を訪問、マンガの新しい波を垣間見た。2回に分けて報告したい。

 ソウルの中心街から車で40分ほど、首都圏のベッドタウンとして発展する京畿道城南市に、そのビルはあった。韓国インターネット大手のネイバーの本社だ。

 この中にマンガの編集や配信を行うウェブトゥーン部門がある。 

 ウェブトゥーンというウェブで展開するマンガは、高速インターネットが早く普及した韓国で発達したものだ。

 ブームのけん引役を果たしてきた「ネイバー・ウェブトゥーン」は、現在「ウェブトゥーン・ワールドワイド・サービス」に加盟している。

 全世界10か国に電子コミックを配信するプラットフォーム(共通な標準環境)で、日本でも「LINEマンガ」が事業を展開している。

彩色はAIペインターの役割に

彩色はAIペインターの役割に

AIペインターのデモ(著者撮影)

 最初に見学したのは「AIペインター」と呼ばれるシステムだ。

 ウェブトゥーンの特色はフルカラーで、1話ごとに購読し、読み切るスタイル。

 このため、漫画家は彩色の作業に追われることになるが、これをAIに自動で行わせるのが狙いだ。

 若手社員が大きなパソコン画面を使ってデモをしてくれた。人の顔の絵をクリックすると、コンピュータが過去の似たような絵から判断して、肌の色や髪の毛に、自動で色を付けてくれる。正直、かなり自然な仕上がりになっていると思った。

 マンガの背景は複雑で、描くのに時間がかかるが、あらかじめ用意した写真をクリックすると自動的にマンガ風に描き直してくれる。これもなかなかのレベルだった。

 AIペインターは、まだ実験段階のベータ版だそうだが、作家も興味を示しており、ストーリーを除いた部分の多くをAIが描く時代が到来するかもしれない。

 デモをしてくれた若手社員は、いずれも大学などでAIやコンピュータを専攻してきた専門家だという。

 「あまりAIに頼り過ぎると、人間味が失われないか?」
 
 「着色するプロの技術が失われ、マンガ自体が単調にならないか?」

 あえて意地悪い質問を投げかけてみた。

 答えは「あくまで補助的なツールとして考えています。節約した時間を、次のストーリーを考える創作のために使ってもらえたらいい」とクールな答えだった。

プロ作家は2700人にも

プロ作家は2700人にも

日本の漫画業界も脅威に感じているウェブトゥーン(著者撮影)

 ウェブトゥーン・ワールドワイド・サービスが公開している2022年9月の数字によれば、アプリのダウンロード数は2億以上、ここで作品を発表しているプロの作家は2700人、アマチュアの作品発表の場も提供しており、その数は83万人に上る。実際にマンガを読んでいる利用者も月8900万人になるという。

 これだけ数字が大きいと実感がわかないが、日本のマンガ業界も脅威を感じているのは間違いない。

 ある大手出版社の担当者は筆者に、「何と言っても縦スクロールは片手で操作でき、読みやすい。日本の出版社はマンガ雑誌中心の展開なので、小回りが利かない」と、ウェブトゥーンの動きを気にしていた。

 ウェブトゥーンの台頭について、マンガを含む大衆文化研究家の石岡良治・早稲田大学准教授は、

 「私の教える学生たちもウェブトゥーンには多く触れています。面白いのは、サブカルチャーやポピュラーカルチャー好きな学生たちが『日本のマンガは世界1』と言いつつも、実際に読んでいるのは韓国発祥のウェブトゥーンなんですよ。そういう人は、ウェブトゥーンを日本のものだと思い込んでおり、それくらい日常に浸透してしまっている」(月刊中央公論12月号)と、その人気ぶりを語っている。

 ただ、ウェブトゥーンがどれだけ広がるかは「未知数」と見ている。

 次回は、日本で急速に存在感を増している「LINEマンガ」のキム・シンベCEOのインタビューをお送りする。

LINEマンガ16週間試掲載で新人発掘 新日韓協力モデルになるかへ続く。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)、『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)など、近著『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社、2022年)
@speed011

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One Comment

  1. スマホで読むようなチマチマした縦型絵巻物では、アクション等のコマ割り・ダイナミズムは表現出来ない!
    其処が致命的に劣ってる。
    所詮紙芝居なんだよ・・・韓国のウェブトゥーンはwww

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