核兵器禁止条約がまもなく発効

核兵器禁止条約がまもなく発効

北朝鮮が今年10月公開した新型ICBM(提供「コリアメディア」)

 核兵器禁止条約の発効まであと1か月となった。この条約は核兵器の開発・保有・使用を禁止するものであり、2017年7月7日に国際連合総会で採択された(122か国が賛成)。

 50の国と地域の批准が条約の発効要件であるところ、今年10月にホンジュラスが50か国目となる批准をしたことで2021年1月に発効することになった。

 だが、米国やロシアなど核保有国である9か国がすべて批准していないなど課題は多い。

 「北大西洋条約機構(NATO)」加盟各国が12月15日、「核兵器禁止条約が現在の国際的な安全保障の条件に適していない」ことを理由に同条約に不同意あると表明するなど、各方面で牽制が続いている。

50年間続くNPT体制

 核保有国やNATOなどは核兵器禁止条約に反対する一方、「核拡散防止条約(NPT)体制の維持こそが必要である」と主張している。

 NPTとは1970年に発効した条約で、「1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国」を「核兵器国」として認めている。米国、ロシア、中国、フランス、イギリスの5か国がこれに該当する。

 上記5か国以外は「非核兵器国」として核兵器の開発等を禁止し、非核兵器国の原子力活動に対して「IAEA(国際原子力機関)」による査察等の実施を義務づけている。

 だが、現在までにNPT非批准国である北朝鮮、パキスタン、インド、イスラエルが核を保有するにいたっている。

NPTと核兵器禁止条約の論点

 NPTは核保有国に「誠実に核軍縮交渉を行う義務」(核軍縮義務)を課しているが、特定の国にだけ核保有を認めていることから「不平等条約」という指摘もある。

 この点、核兵器禁止条約は特定の国を例外とすることなく、初めて核兵器を包括的に法的禁止とする国際条約である。

 核兵器国などは、昨今の安全保障の観点から「核抑止」が必要であると主張し、核兵器禁止条約に反対している。もし核兵器を一気に放棄して核抑止の効果を失えば、安全保障上のリスクが生じるため、「NPT体制の下、段階的に核兵器を削減していくべき」というのが基本的な考え方である。

 一方、核兵器禁止条約の参加国は、核兵器による被害は国境や世代を越えるという「非人道性」から、「核兵器はすべてを一気に廃絶すべき」という考えだ。NPT体制の意義を認めつつも核戦略に頼る安全保障からの脱却を訴えている。

 このように「将来的な核廃絶」というゴールは一致しているが、核廃絶へのプロセスや安全保障の考え方などについて核兵器禁止条約の参加国と反対国の間には大きな認識の隔たりがある。両者の対立が埋まらないまま条約発効にいたったのである。

唯一の原爆被害国である日本は核兵器禁止条約には不参加

唯一の原爆被害国である日本は核兵器禁止条約には不参加

スイス・ジュネーブにある国連事務所

唯一の原爆被害国である日本は核兵器禁止条約には不参加

 実は日本は核兵器禁止条約を批准しておらず、一貫して「核兵器禁止条約には署名しない」と主張している。日本や韓国などの同盟国は安全保障を米国の「核の傘」に依存しており、条約に参加すれば整合性がとれなくなるからである。

 加藤勝信官房長官は10月26日の記者会見で、「核兵器禁止条約が目指す核廃絶というゴールは共有している」としながらも、「条約はわが国のアプローチとは異なる」と述べた。「北朝鮮の脅威」を常々訴えている日本としては、日米同盟や核の傘から抜けることは「安全保障上のリスク」があるという認識だ。

 つまり、日本としては原爆被害国として核兵器禁止条約を否定できないが、積極的に関与することもできない状況に陥っている。

 たとえば、日本は毎年、国連総会に核兵器廃絶決議案を提出しているが、2017年に核兵器禁止条約が採択されてからは同条約には直接言及することを避けている。今年の決議案も同様であった。

期待される間の橋渡し役

 このような日本の姿勢に条約参加国から非難が寄せられている。そのことを反映してか、今年12月7日に決議案自体は採択されたものの、賛成は150か国で前年より10か国減少し、決議案に強く賛同する「共同提案国」も56か国から26か国と半減した。

 条約参加国からは締約国会議に「オブザーバー参加」という形での関与を求める声も出ているが、日本政府はこれについても慎重な姿勢である。

 11月20日には広島市の松井一実市長と長崎市の田上富久市長が政府に条約への署名と批准を要請するなど、国内からも条約参加を求める声は多いが、いまだ日本政府の態度に変化はない。

 日本には核兵器国と非核兵器国の間の橋渡し役が期待される。

核兵器禁止条約に賛同していた時期がある北朝鮮

 ちなみに北朝鮮は一時期、核兵器禁止条約に賛同していたことがある。

 2016年10月に行われた国連総会第1委員会で、核兵器禁止条約制定交渉開始を定めた決議採択に賛成したのだ。

 北朝鮮は自国の核開発は米国の核の脅威から国を守るための「抑止力」と規定しており、米国の核兵器も禁止対象となる核兵器禁止条約に積極的な立場をとったとみられる。北朝鮮としては、「米国からの核の脅威がなくなれば、自衛のための核兵器も必要ない」という論理だ。

 ただ、2017年7月7日に国連本部で開催された核兵器禁止条約交渉会議では反対に転じた。このころ、米朝関係が著しく悪化していたため方針転換を図ったのだろう。

 その後、2018年4月に金正恩労働党委員長がICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験の中止と、核実験場の放棄を発表しているが、米国との非核化協議はこう着状態にある。

米国とロシアが全世界の核兵器の90%以上を所有

米国とロシアが全世界の核兵器の90%以上を所有

広島・長崎からも条約批准を求める声が上がる

米国とロシアが全世界の核兵器の90%以上を所有

 「米国科学者連盟(FAS)」が発表した推計値によると、核兵器国の総核兵器数(Total inventory)は、ロシア6372個、米国5800個、中国320個、フランス290個、イギリス150個となっている(2020 年9月時点)。前出の5か国に加えてパキスタン160個、インド150個、イスラエル90個、北朝鮮35個と続く。

 このように米国とロシアが世界の核兵器の90パーセント以上を保有しているのが現状であり、両国の核兵器の有無で世界の軍事バランスが大きく変わる。

 核兵器禁止条約発効により、NPT体制にどのような変化が生じるのか注目が集まる。

八島 有佑

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