金剛山への観光再開を成果に現状打破したい文大統領

金剛山への観光再開を成果に現状打破したい文大統領

金剛山・世尊峰 出典 のりまき [Public domain], via Wikimedia Commons

金剛山への観光再開を成果に現状打破したい文大統領

 非核化をめぐる北朝鮮と米国との交渉は、2020年になってもまったく進んでいない。

 トランプ大統領はイランとの対立、自身の弾劾裁判などの影響で、北朝鮮どころではなくなっている。北朝鮮も、米国がイランの指導者を暗殺した事件に衝撃を受けているようで、当分、目立った動きは控えるに違いない。
 
 こういう「凪(なぎ)」の状態が続くことは悪いことではないが、困っている人もいる。韓国の文在寅大統領だ。4月には国会議員を選ぶ総選挙が控えている。対北朝鮮政策は、文氏の売り物だが、この1年ほどほとんど成果がない。なにか突破口を作り、与党の勝利を実現したい。

 そこで浮上しているのが、北朝鮮の景勝地、金剛山への観光再開だ。

 金剛山への観光は金大中大統領時代に華々しくスタートした。私も訪問したことがある。閉鎖された国の自然を楽しむ、という物珍しさがあった。

韓国人観光客殺害、5.24措置を経て文大統領が口にする個別観光とは?

 そんな中の2008年、韓国人観光客が朝鮮人民軍の兵士に射殺される事件が発生して、事業は中断に追い込まれた。

 さらに悪いことに2010年には、韓国の哨戒艦、天安艦が爆沈される事件が起きた。韓国政府は北朝鮮の仕業と断定。韓国国民の北朝鮮訪問を全面禁止(5.24措置)し、今日にいたっている。

 文氏は、今年の年頭会見で切り札を出した。

 「(金剛山への)個別の観光は国際的な制裁に抵触しない」と述べ、金剛山観光を再開する考えを明らかにしたのだ。

 文氏の発言のミソは「個別観光」という聞き慣れない単語にある。

 かつて金剛山観光は、「現代峨山」という韓国側の会社が受け持ったが、事実上、南北の政府間の合意と保証で進められた。今回は、韓国国民が自分の責任で個別に観光する。観光客の安全には不安が残るものの国連安全保障委員会の制裁に当たらなくなる。

人道目的なら第3国の旅行会社を通じて韓国人が個別訪朝しても国連制裁に抵触しない

 韓国統一省がこれに関連して発表した報道資料によれば、個別観光とは、「非営利団体、または第3国旅行社等を通して、個別に北朝鮮からの訪問承認を受けて、北朝鮮を訪問する」ことだそうだ。

 これだけ読んでも何のことか分からないが、平たく言うとこうなる。

 北朝鮮に別れて住む離散家族との再会など人道的な目的であり、中国など第3国の旅行社を利用し、北朝鮮側が受け入れをはっきり表明した場合なら、行っても構わない。

 もちろん宿泊費、現地でのお土産購入費など現地には外貨が落ちるものの、多くの中国人が現在北朝鮮観光を楽しんでおり、国際的にも認められている。その中に韓国の人たちが入っても問題ないという理屈だ。

かつて金剛山観光で6億ドルが北朝鮮へ流入した疑念

 金剛山観光については、かつて韓国の野党が、「観光事業関連の代金約6億ドル(約657億円)が北朝鮮軍や労働党に流入した疑いがある」と主張したこともある。兵器開発や、統治資金に流用された疑いが強い。

 個別観光が実現しても、観光収入は以前に遙かに及ばないだろう。しかし、「北朝鮮の完全非核化」を求める米国は、さっそく難色を示し、韓国政府との摩擦を起こしている。肝心の北朝鮮もまだ、前向きな反応を示していない。

 観光客の安全対策、米国の反対、北朝鮮の無関心など課題は多い。しかし、韓国の専門家たちは、多少無理をしてでも、実現すべきだと主張している。

新型コロナウイルス感染拡大で北朝鮮は観光客の受け入れ全面停止

 金正恩朝鮮労働党委員長は、観光開発での経済再建を目指すが、空回りしているのが実状だ。ここで韓国からの観光が再開されれば、正恩氏の「メンツ」が立ち、南北関係や、米朝関係も動き出す…。

 ただ、ここに来て新たな難題が降りかかってきた。新型コロナウイルスによる肺炎の拡大だ。北朝鮮は、肺炎の流入を恐れ、海外からの観光客の受け入れを中止してしまったのだ。

 金剛山は標高1639メートルと、そう高い山ではないが、朝鮮半島では日本の富士山のようにあがめられ、さまざまな言い伝えが残る名山だ。

 その山は、いまだ深い霧に包まれ、見通しが利かないままだ。


シンガポール船で観光開始 北朝鮮・金剛山

 2013年5月20日に実施されたツアー。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。

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