激化する日韓対立。その背景にある歴史認識問題

激化する日韓対立。その背景にある歴史認識問題

激化する日韓対立。その背景にある歴史認識問題

 日本政府は8月2日、日本政府が輸出管理で優遇措置を適用するホワイト国から韓国を除外することを閣議決定し、日本と韓国の関係は悪化の一途をたどっている。

 そもそもの発端となったのは、昨年10月に韓国の最高裁大法院が日本企業に元徴用工らへの損害賠償を命じた判決を確定させたことだった。

 日本政府は、1965年の日韓請求権協定(日韓請求権ならびに経済協力協定)で元徴用工への補償問題は解決済みとの立場であったことからこの判決に強く反発し、その後、日韓関係は険悪となって今にいたる。

 日韓間の溝となっているのが歴史認識問題だ。徴用工問題や慰安婦問題など戦後、両国が抱え続けてきた問題である。日本政府が「法的に解決済みである」とするこの歴史問題であるが、なぜここまで韓国と見解が異なるのだろうか。

 この問題に詳しい近現代史専門家である康成銀氏(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長)に、韓国側の認識を解説してもらった。

なぜ「解決済み」の問題が蒸し返されるのか?

Q 植民地支配をめぐる諸問題は戦後の極東軍事裁判やサンフランシスコ条約、日韓基本条約で解決済みではないのですか。

 第2次世界大戦後の戦後処理裁判では、戦勝国自体が植民地支配国であったこともあり植民地問題は大きく扱われなかった。ニュルンベルク裁判と極東軍事裁判では、「平和に対する罪」(侵略戦争等)と「人道に対する罪」(一般市民の虐殺等)が裁判所条例に記載されたが、極東軍事裁判では「人道に対する罪」は適用されてはいない。

 また、1951年のサンフランシスコ平和条約では、連合国側は日本の経済復興のため賠償を放棄しているが、中国と朝鮮は講和会議に招聘されなかったため出席しておらず、調印していない(注:韓国は「日本と戦争状態にあったことはなく、連合国共同宣言にも署名していない」ことを理由に講和条約署名国となれないとされた)。

 このときに調印しなかった国とは二国間協議で解決していくものとされ、韓国とは1965年に日韓基本条約および日韓請求権協定を締結した。日本は協定に基づき、合計5億米ドル(無償3億米ドル、有償2億米ドル)および民間融資3億米ドルを支払っている。だが、これは経済協力支援という名目であり、植民地責任などについてきちんと議論がなされないまま日韓基本条約は「完全かつ最終的に解決された」とされた。

 こうして日韓は歴史問題についてともに向き合うことなく「解決済み」になったという経緯がある。そのため、韓国内では日韓条約について批判の声も大きい。

問題となるのは個人の請求権問題

Q では韓国は日本に何を求めているのでしょうか。

 韓国が日本に求めているのは、真摯に過去の歴史と向き合うことである。

 同じ敗戦国であるドイツは、賠償が終わっても永遠に謝罪するという覚悟があり、国民への歴史教育もしっかりなされている。だが、日本にはそのような覚悟もなく、国民も過去の歴史を正しく認識していないという印象を持たれている。

 日本の中には「いつまで謝罪しなければならないのか?」と述べる人もいるが、前述の通り日韓条約では植民地問題については謝罪をしていない。

 その後、1995年村山談話や1998年日韓共同宣言(21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ)で過去の植民地支配について反省と謝罪が述べられているが、以降の日本政府や議員の発言を聞いていると、誠実に植民地責任に向き合っているとは言い難い。

Q 法的には国家間の請求権問題は終わっていますが、今回の徴用工問題をどのように捉えるべきですか。

 「人権主義」の立場で考えると、国家同士がどのような条約を締結しても、個人の損害賠償問題は残る。

 今回の発端となった徴用工問題をめぐる最高裁判決は市民運動の高揚を背景とした司法の判断であるため、日本政府はこれに介入すべきではないと言える。そもそも日本政府は従来から請求権協定について、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではないと明言してきた。

 日本政府は、韓国政府の求めに応じ、徴用工問題をはじめとした歴史認識問題について議論し、真摯に向き合っていくべきではないか。

断交か和解か

 過去最悪と言っていいほど日韓関係は冷え込んでいるが、その背景には歴史認識をめぐる構造的な問題がある。

 康氏の説明にもある通り、日韓請求権協定における個人の請求権に関する日韓両府の認識の相違がここまでの事態を引き起こしたとも言える。

 日韓が完全に断交することはないだろうが、そうかと言って歴史認識問題を残したまま和解することもできないだろう。

 両政府が互いにこのまま強硬な姿勢で臨むのか、それとも議論の末解決策を見出すのか注目したい。

 最後に、参考までに日韓請求権協定における個人請求権に関する日本政府の立場を示した衆議院答弁書を掲載しておく。

〇初鹿明博「日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問主意書」(衆議院、平成30年11月9日提出質問第49号、2018年)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a197049.htm

〇内閣総理大臣安倍晋三「衆議院議員初鹿明博君提出日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問に対する答弁書」(衆議院、平成30年11月20日受領答弁第49号、2018年)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b197049.htm
 
 
康成銀朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長
1950年大阪生まれ。1973年朝鮮大学校歴史地理学部卒業。朝鮮大学校歴史地理学部長、図書館長、副学長を歴任。現在は朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長を務めている。
 

八島 有佑

記事に関連のあるキーワード

おすすめの記事

こんな記事も読まれています

コメント・感想

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA