問題となるのは個人の請求権問題
Q では韓国は日本に何を求めているのでしょうか。
韓国が日本に求めているのは、真摯に過去の歴史と向き合うことである。
同じ敗戦国であるドイツは、賠償が終わっても永遠に謝罪するという覚悟があり、国民への歴史教育もしっかりなされている。だが、日本にはそのような覚悟もなく、国民も過去の歴史を正しく認識していないという印象を持たれている。
日本の中には「いつまで謝罪しなければならないのか?」と述べる人もいるが、前述の通り日韓条約では植民地問題については謝罪をしていない。
その後、1995年村山談話や1998年日韓共同宣言(21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ)で過去の植民地支配について反省と謝罪が述べられているが、以降の日本政府や議員の発言を聞いていると、誠実に植民地責任に向き合っているとは言い難い。
Q 法的には国家間の請求権問題は終わっていますが、今回の徴用工問題をどのように捉えるべきですか。
「人権主義」の立場で考えると、国家同士がどのような条約を締結しても、個人の損害賠償問題は残る。
今回の発端となった徴用工問題をめぐる最高裁判決は市民運動の高揚を背景とした司法の判断であるため、日本政府はこれに介入すべきではないと言える。そもそも日本政府は従来から請求権協定について、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではないと明言してきた。
日本政府は、韓国政府の求めに応じ、徴用工問題をはじめとした歴史認識問題について議論し、真摯に向き合っていくべきではないか。
断交か和解か
過去最悪と言っていいほど日韓関係は冷え込んでいるが、その背景には歴史認識をめぐる構造的な問題がある。
康氏の説明にもある通り、日韓請求権協定における個人の請求権に関する日韓両府の認識の相違がここまでの事態を引き起こしたとも言える。
日韓が完全に断交することはないだろうが、そうかと言って歴史認識問題を残したまま和解することもできないだろう。
両政府が互いにこのまま強硬な姿勢で臨むのか、それとも議論の末解決策を見出すのか注目したい。
最後に、参考までに日韓請求権協定における個人請求権に関する日本政府の立場を示した衆議院答弁書を掲載しておく。
〇初鹿明博「日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問主意書」(衆議院、平成30年11月9日提出質問第49号、2018年)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a197049.htm
〇内閣総理大臣安倍晋三「衆議院議員初鹿明博君提出日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問に対する答弁書」(衆議院、平成30年11月20日受領答弁第49号、2018年)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b197049.htm
康成銀朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長
1950年大阪生まれ。1973年朝鮮大学校歴史地理学部卒業。朝鮮大学校歴史地理学部長、図書館長、副学長を歴任。現在は朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長を務めている。
八島 有佑