1.8判決と判断分かれる

1.8判決と判断分かれる

3月1日、「三・一独立運動」記念式典で演説を行った文在寅大統領 出典 韓国大統領府

 ソウル中央地裁は4月21日、元慰安婦の韓国人女性らが日本政府に賠償を求めた裁判で、原告の訴えを却下した。

 主権国家は他国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則を認め、日本側の主張を受け入れた判断となった。今年1月8日に判決があった別の慰安婦訴訟では日本側が全面敗訴しており、同種の訴訟で判断が分かれた形である。

ソウル中央地裁「日韓合意は有効」

 判決では、2015年に日韓両政府で交わした「日韓合意」についても判断を示している。日韓合意は、「日韓慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した」と合意したものであるが、韓国では「合意は無効」という主張もあり、いまだ解決に至っていない。

 そのような中で、地裁は、日本政府は合意に基づき、韓国政府が設立した元慰安婦を支援するための財団「和解・癒やし財団」(18年に解散)に資金を拠出したことに言及。

 元慰安婦の女性や遺族の中には、同財団から支援金を受け入れた人もおり、「(日韓)合意が女性らへの救済手段であることは否定できず、合意は今でも有効」と指摘して、合意の有効性を認めたのである。

 ただ、その一方で、「元慰安婦の女性たちの被害の回復には不十分である」とも述べており、慰安婦問題は解決に至っていないとの立場を示した。加えて、問題解決には「外交交渉を含む韓国の内外での努力」が必要であると主張した。つまり、判決では、「日韓合意は有効だが、慰安婦問題解決のためにはさらなる外交努力が必要」という認識が示されたのである。

文在寅大統領の主張に沿った判決

 実は、今回の判決は文在寅(ムン・ジェイン)政権が示した立場に近いものがある。

 文大統領は、今年1月18日の新年記者会見で、ソウル中央地裁が日本政府に元慰安婦らへの賠償を命じる判決(1月8日)を出したことについて、「困惑している」と言及した。

 文大統領が慰安婦にとって有利な判決について困惑と表現したことは、日韓でも話題になった。日韓合意については、「公式的な合意であったという事実は認める」として合意の有効性を認める発言まで行なっている。

 その上で、文大統領は、「日韓合意という土台の上で、今回の判決を受けた被害者のおばあさんたちも同意することができるような解決方法を見つけるため、韓日間で協議していく」として、外交的努力が必要であるとする見解を示したのだ。

 このように「日韓合意は有効だが、慰安婦のためには日韓で協議が必要」という主張で、判決の内容と大筋一致していることがわかるだろう。

 言い換えると文政権は、今回の判決を契機に慰安婦問題解決のために外交手段へ訴える正当性を得たとも言える。だが、日本政府は、そもそも「日韓合意で慰安婦問題は解決した」という立場をとっているため、韓国側の働きかけにどう応じるかは不明である。
 

保守系と革新系で論調が二分

 今回の判決について韓国主要各紙は1面トップで報じたが、論調が分かれた。

 革新系のハンギョレ新聞は社説で、判決が主権免除の原則を認めたことについて、「国際法の形式的な枠にとらわれず、人間の尊厳性に照らして判断しなければならない」と批判。上級審で判決が覆ることに期待した。

 一方、保守系の朝鮮日報は、「裁判は法的論理に従うべき」「反日であれば国際法を無視してもよいというのではいけない」として、地裁の判断を支持した。

 このように文在寅政権を支持する革新系では、「歴史的事実の軽視」と批判する一方で、保守系紙は「判決は妥当」とする立場を示している。文大統領としては、外交戦略としての本心がどうであれ、革新系の見解を無視するわけにはいかないだろう。

 今回の裁判は敗訴した原告側が控訴する見通しであり、日韓両政府の対応に注目が寄せられる。

八島 有佑

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