出典 YunHo LEE [Public domain], via Wikimedia Commons

 展示内容をめぐり、中止となった企画展「表現の不自由展・その後」が10月6日にも再開される見通しとなった。この企画展は、愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の一環として開かれ、抗議が相次いでいた。問題視されたのは、旧日本軍の慰安婦を象徴しているとされる少女像と天皇陛下の写真を燃やすシーンを含む映像作品だった。

 中でも少女像は、ソウルの日本大使館前のほか世界各地に設置されており、日本政府も反発している。再開されれば、混雑と混乱が予想されるが、少女像には韓国人でさえ知らない経緯と意味が込められている。

謎1 本当の作品名は何なのか

 日本では慰安婦像とか、慰安婦を象徴する少女像と、舌をかみそうな名前で語られるが、「平和の少女像」がもともとの名前だ。

 慰安婦問題の解決をアピールするためソウル市内で毎週開かれている集会が2011年12月14日に1000回を迎えたのを記念し、日本大使館前に設置されたのが最初となる。その後、韓国各地と世界にも広がっている。

謎2 慰安婦というが、なぜ成人女性ではなく少女なのか

 これについては諸説ある。2002年6月13日、友達の誕生会に向かう途中で米軍装甲車に引かれて死んだ少女2人のうち1人であるシム・ミソンさんという指摘もある。確かに顔は似ている。
 作家であるキム・ウンソン、ソギョン夫婦は、朝鮮時代の典型的な少女を描いたと語っている。

 製作意図について9月5日に放送された「NHK」のクローズアップ現代で、夫婦は以下のように答えている。

作家 キム・ソギョンさん
 「(平和の少女像は)戦時中に被害にあった若い女性たちのつらい体験と、韓国に帰った後も無視され、偏見の中で暮らした歳月が込められています」
作家 キム・ウンソンさん
 「反日の象徴として語られていますが、私たちは平和の象徴と考えています。(戦争の)悲しみと暗い歴史を語る象徴なのです」
作家 キム・ソギョンさん
 「人々と触れ合うはずだったのに、それができなくなっちゃったね」

 日本メディアの取材なので控えめだが、韓国メディアにはずばり、「慰安婦を象徴している」と語ることもある。

謎3 像に込められた意味は何か

 この点については、韓国のメディアも写真入りで繰り返し報じている。それだけ、知らないということだろう。

 まず像の後ろには年配女性の影が描かれている。これは、少女らが、年配になるまでに歩いてきた長い時間に体験した痛みを現わすものだ。影部分の心臓に当たる場所には、白い蝶がある。新しい世界で生まれ変わる希望を示しているという。

 右足を地面から少し浮かせている。ゆっくり休むことができない被害者の人生を表現したという。十分な対応を取らなかった韓国政府への抗議も込められているという。

 手は固く結んでいるが「平和な世の中をつくる」という決意を示す。左側肩上には小さな鳥がいる。平和と自由を象徴するだけでなく、すでに亡くなった女性たちの霊魂と今をつなぐ存在だという。

(続く)

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。

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